江戸時代の古地図 (切絵図)を見る時には、大名屋敷については「永井若狭守」のように大名の家名+官職(受領官途名)で書いてあるので、それがどこの藩の藩主(大名)の屋敷なのか知るためには、各藩の各時代の藩主が誰なのかを知らないと読み解くことができません。国持ちの大大名は別として、一般の大名では複数の大名が同じ受領官途名をもっています。例えば「摂津守」は下野佐野藩堀田摂津守、武蔵岡部藩安部摂津守、越後黒川藩柳沢摂津守、美濃高須藩松平摂津守、志摩鳥羽藩稲垣摂津守がいます。

誰がどこの藩の藩主なのかを調べるために、各藩の年代毎の藩主の姓・受領官途名と藩名の対応表を作成し、表の藩主名から藩名を探すことができるように一覧表を作成しました。対応している年代は、切絵図が多く作られた天保年間以降の慶應4年(1830年~1868年)を対象にしています。明治政府による、明治2年の版籍奉還後の藩知事への任官、叙任は記載していません。

大名、藩、官職の図
左図は国立国会図書館デジタルコレクション「[江戸切絵図] 外桜田永田町絵図」(嘉永3年)より一部抜粋

幕末 文久2年(1862年)時点の日本全国の地図はこちらをご覧ください。

各地方の藩主(大名)一覧表

江戸幕府の幕末文久2年(1862年)の全藩の一覧と、各地方の天保年間~慶応年間(1830年~1868年)の藩主(大名)一覧を掲載します。

藩主(大名)一覧の第一弾として蝦夷、東北地方の藩主一覧を掲載しました。他の地域の藩主(大名)一覧も順次掲載していきます。

藩主は基本的には1万石以上の大名ですが、色々な例外があり、1万石以下の藩主も少なからず存在しました。

・ 喜連川藩のように石高が5千石であっても、足利家嫡流の家格から大大名として扱われた場合がありました。
・ 寄合旗本で1万石未満でも大名格として扱われる場合がありました。
・ 藩が相続対策、家臣の功績などによって藩の一部を分与して立藩した場合で、本家と合算して一万石以上としている藩もありました。

藩主(大名)一覧表の詳細説明

全藩主(大名)一覧表の各列の内容は以下の通りです。

  • 藩主名
    ・藩主名は「藩主の公式姓+受領官途名」で書いています。切絵図(江戸古地図)上も基本的にこの名前で書かれています。受領官途名は、家督相続、昇進、自分の意思等で変わるので、例えば石見守から周防守など、年代によって変わります。見ようとする古地図(切絵図)の制作年度に該当する名前で調べる必要があります。受領官途名が変わった年度がわかる場合は、行を分けて記載していますが、変わった年度が不明な場合は複数の「藩主の公式姓+受領官途名」を記載しています。

    ・受領官途名が複数ある場合もあります。例えば受領官途名が「陸奥守 兼 左近衛中将」だったりするので、どの受領官途名を自分の「名乗り」にしていて、切絵図にどれを掲載しているのかは不明です。
    御三家、御三卿、高位の大名は多くはないので大納言、中納言などと古地図上では明確なのですが、一般大名が受領官途名を複数持っている場合に名乗りにどれを使っているかは不明ですので、受領官途名を全て記載しています。

    ・藩主在任期間中の受領官途名のみを記載しています。隠居、他藩への転封後の受領官途名は記載していません。

    ・叙任する前は「受領官途名」が無いので、「無官」と記載しています。古地図上ではどうやら代わりに通名(隆之介、納斎、徳之助など)を書いているようですので、叙任前の場合は一応通名の列を設けて記載しています。
    例えば、武蔵岡部藩藩主・安部信宝は、天保13年(1842年)に家督相続をしましたが、徳川家慶に拝謁して叙任されて摂津守となったのは嘉永3年(1850年)でした。その間どう呼ばれるのか明確ではないのですが、嘉永3年の尾張屋清七版の切絵図では「安部虎之助」と通名で書かれています。
     家督を相続した年内に叙任された場合は、叙任された受領官途名を記載しています。

    ・明治2年の版籍奉還後の藩知事への任官、叙任は記載していません。
  • 国名 藩名
    この藩主の国名、藩名を記載しています。藩に別名がある場合もあるので、探している藩名が見当たらない場合は、「全藩一覧表」をご覧ください。藩の別名、明治以降に改名された藩の名前を記載しています。
  • 家名
    藩主の本来の家の名前です。松平姓を賜った場合は、「藩主名」での公式姓は松平になります。
  • (いみな) : 本来の名前ですが、公にはこの名前では人を呼ばず、藩主名(「藩主の公式姓+受領官途名」)で呼びます。例えば赤穂浪士首領の大石 内蔵助(おおいし くらのすけ)の「内蔵助」は受領官途名であり、諱は「良雄」です。公には「大石良雄」とは呼ばれません。転封、昇進など色々な理由で諱(いみな)を変えた場合は、複数の諱を記載しています。
  • 通名 : 叙任する前の受領官途名が無い時には、古地図上ではどうやら代わりに通名(隆之介、納斎、徳之助など)を書いているようですので、叙任前の場合は一応通名を記載しています。
  • 在職期間 : 藩主に就任してから死去、隠居、他藩への改易などの理由による離任までの期間を記載しています。年月日まで調べた上で正しい西暦に変換して記載しています。教科書等の旧暦と西暦のずれを無視したおおまかな西暦年の記載とは異なっている場合がありますのでご注意ください。「和暦西暦の対照の詳細はこちら」をご覧ください。

官職(受領官途名)の補足

【大名の官名】
江戸時代の地図である「切絵図」では、大名屋敷の名前は「久世大和守」「松平内蔵頭」などと姓+官名で書かれています。切絵図で、どこの藩の屋敷かを知るためには、姓+官名と藩の対応表が必要ですので、職名も記載しています。

官名は、一部の例外を除いて領地と官職名は関係ありません。一般の大名は領地の国の名前を官職名につけてはいけないという規則があります。例えば「久世大和守」は大和国(奈良県)に領地はなく、下総関宿藩の藩主です。蝦夷(北海道)松前藩の藩主は松前伊豆守ですが、神奈川県・伊豆半島に領地はありません。一部の例外とは以下の様な場合です。
・ 松平姓の大藩の国持大大名
・ 外様の大藩の国持大名
・ 国持大名で、大廊下、大伝間の大名と官名が重ならない場合

例えば薩摩藩主は島津家松平薩摩守で、加賀藩主は前田家松平加賀守です。もう少し細かく定められてはいますが、江戸時代の多くのルールは色々な例外が存在しますので、上記は一般原則としてとらえてください。

切絵図を見るために藩主一覧が必要な理由

江戸時代の地図である「切絵図」で大名屋敷がどこの大名か知りたいと思うと、一手間必要になります。大名屋敷名は、例えば「永井若狭守」のように「大名の姓+受領官途名」のように書かれているので、そこから調べる必要があります。受領官途名は略して受領名、官途名とも言います。

・大名屋敷の国、藩を知るためには「永井若狭守」の場合は「永井」氏の受領官途名「若狭守」から調べる必要があります。例えば安政3年(1856年)に「安藤」姓の大名は、摂津高槻藩永井殿、美濃加納藩永井殿、大和櫛羅(くじら)藩永井殿の3人がいます。それぞれの受領名は、備前守、若狭守、遠江守であるので、「永井若狭守」は大和櫛羅藩永井殿であることがわかります。そして、大和新庄藩は文久3年(1863年)に「櫛羅藩」となりましたが安政3年の時点の名前は新庄藩でした。

・大和櫛羅藩永井殿の官職は安政3年には「若狭守」ですが、それ以前の嘉永3年には「信濃守」でした。見ている切り絵図の制作年度が嘉永3年のものであれば、「信濃守」で探さなければなりません。官職は、大名が亡くなって子が継いだ場合、出世した場合などに変わります。ですが、官職が変わってすぐに地図に反映されるわけではないので、官職名が変わっても翌年の切絵図の官職名が昔のままだったりします。ですので、官職名は使用する地図の制作年の前後も含めて調べておく必要があります。

・大名の姓は、将軍から「松平」姓を賜っている場合は松平殿と呼ばれるようになるので、元々の家名と松平姓を賜ったか否かも調べなければなりません。例えば薩摩藩島津氏の官職は「薩摩守」ですが、切絵図には正式名称を書いているので、島津薩摩守ではなく松平薩摩守と記載されました。

このように、切絵図の書かれた「大名の姓+官職名」から大名の国、藩を知るためには、見る対象の切絵図の発行年前後の大名の姓、官職名、国、藩の一覧が必要になります。

藩主(大名)一覧の出典、参考情報

本表の内容は、以下の情報を参考にしています。
どの資料も、国名、藩名、家名、諱は、どの資料でも全て一致していますが、受領官途名、藩主就任期間、通名の記載有無などは、各資料の大元の原典によって微妙に異なっています。

藩主(大名)一覧表は、まずWikiPediaで大まかな情報を抽出して、書籍で足りない情報を補足し、検証して作成しています。WikiPediaには藩のページから藩主名一覧は掲載されていますが、一部の藩主のページは存在しておらず、藩主のページ毎に記載の詳細度の差があるので、参考書籍で情報を完成させています。参考書籍とWikiPedaiの情報が一致しない場合は、書籍の方が専門家によって検証が十分されていると考え、書籍の内容を正としてしています。書籍間の内容が一致しない場合は、藩主就任期間については藩史大事典、受領官途名と通名は三百藩藩主人名事典を正として記載しています。

  • 藩史大事典 (新装藩): 木村 礎、藤野 保 、編, 村上 直 編 雄山閣  全8巻
    ISBN: 第1巻: 4-639-02385-2 / 第2巻:4-639-02386-9 / 第3巻: 4-639-02387-6  / 第4巻:4-639-02388-3 / 第5巻: 4-639-02389-0  / 第6巻: 4-639-02390-6 / 第7巻: 4-639-02391-3  / 第8巻:4-639-00965-8 
    豊臣政権末期から廃藩置県までの274年間に存在した藩(大名)について、廃絶大名も含めて網羅。藩名、概観、藩主、略年表、職制など、藩史研究に必要なあらゆる項目を記載している。藩主の情報が一覧形式の表になっており、理解しやすい。
  • 三百藩 藩主人名事典: 藩主人名事典編纂委員会 /編   新人物往来社 1986年発行 全4巻
    ISBN: 第1巻:4-404-01367-1 / 第2巻:4-404-01383-3 / 第3巻: 4-404-01402-3 / 第4巻:4-404-01350-7
    藩主毎の細かい歴史を記載している。
  • WikiPedia : https://ja.wikipedia.org/ の各藩、藩主の情報
  • 江戸時代全大名家事典 : 工藤 寛正編 東京堂出版  2008年発行 ISBN:978-4-490-10725-8
    江戸大名434家(廃絶大名家も含む)、全藩主3489名を網羅した事典。発祥地、藩の由来、成立、藩政運営など、各大名家の歴史を概括的にまとめて略系図を付し、転封の情況がわかる。藩主3489名については、生没年月日、父母、側室、享年、藩主相続年月、実績、入転封の年月をはじめとして人間像まで、一人一人のデータを詳細に解説。
  • 江戸幕藩大名家事典 上/中/下 : 小川恭一編  原書房 1992年発刊 
    各種の「武鑑」をはじめとする多数の史料を読みこみ、例外が多く複雑をきわめる幕藩制度・大名家格を中心に具体的に解説した、江戸時代研究に不可欠の書。(MARCデータベース)
  • 江戸大名家名事典 : 川口素生著 新紀元者出版 2013年発行 ISBN : ISBN 978-4-7753-1083-0
    江戸時代を生き抜いた幕末287の大名家を石高、大名になった年、本拠地などのデータとともに全網羅して紹介。