江戸幕末の地図を、現代の測量された地図上に、位置を補正してあてはめて復元しました。下のボタンで見られる「拡大図」ではより詳細な地図を表示して、現代の電車路線図、後述の切絵図、江戸鳥瞰図の範囲、タイル座標と重ねあわせることができます。

江戸幕末地図
御江戸幕末地図

江戸幕末の街の地図を、GoogleMap、OpenStreetMap、地理院タイルのように、江戸全体図が見渡せてかつ細かい箇所も自由に拡大して見られて、かつ現代の地図と重ねることのできる地図が作りたかったので、今風なデジタル技術で江戸地図を制作しました。江戸切絵図(須原清七板)の範囲、立川博章氏の鳥観図の範囲なども重ねて見ることができます。

【地図の年代】
この地図は、嘉永2年(1849年)~文久2年(1862年)の頃の江戸を想定しています。
国立図書館デジタルアーカイブで参照できる嘉永2年(1849年)~文久2年(1862年)の尾張屋清七版切絵図を元にしているため、それ以前に作成された江戸切絵図、江戸名所図会その他の情報も含まれているため、江戸幕末頃ととらえてください

【地図の元情報】
現代の地図以外に明治陸軍の測量地図を参照しながら、尾張屋清七版の切絵図の位置を補正してあてはめています。それ以外に立川博章氏の鳥観図、復元江戸情報地図、東京都の復元江戸地図、嘉永年間前に作成された江戸切絵図、江戸名所図会などから作成しています。

現代の地図に重ね合わせられる箇所はほぼ正確だと思いますが、現代の地図とは一致しない小路、田んぼ道、原っぱの中の道や、今とは異なる町や屋敷の境界などは厳密な位置がわからないため、およその位置に線を引いています。そういった場所は数十メートル程度かそれ以上の誤差があると思います。

【大名屋敷名】
江戸時代の地図である「切絵図」では大名屋敷は「堀田備中守」などと記載されていますが、それではどの国のどの藩主の屋敷かわかりませんので、「下総佐倉藩堀田殿」(千葉県佐倉市付近)等に書き直しています。「備中守」の部分は官職名ですが、家督相続や昇進によって変わることが多いです。(国持大大名、徳川家などは一定です)、しかし大名官職名と国藩名を一覧化した資料は江戸時代には作成されなかったので、対応表を作成しました。「大名官職名と国藩名対応一覧」

御江戸地図と重ねられる地図

御江戸地図の拡大図は「現代の電車路線図」、「江戸切絵図(清七版)」、「江戸鳥観図」を重ねて表示することができます。
それぞれ、「鳥観図範囲ON/OFF」 「現代路線図ON/OFF」 「切絵図範囲表示ON/OFF」タイル座標ON/OFF等のボタンで表示、非表示を選択することができます。

御江戸絵図-鳥観図の範囲

江戸鳥瞰図の範囲

立川博章氏の江戸鳥瞰図の範囲を示しています。
御江戸地図 【拡大図】の「鳥瞰図範囲ON/OFF」 のボタンで表示 / 非表示を選択できます。
鳥観図は上空斜め上から地上を見下ろした3次元を表現した図であるため、遠近法によって鳥観図の手前下は大きく、上奥に行くほど小さく見えます。左の範囲の図では、各鳥瞰図の範囲が台形になっていますが、台形の長い辺が鳥観図の一番上奥の遠い側になります。

御江戸地図-鉄道路線図
御江戸地図-鉄道路線図

鉄道路線図
御江戸地図 【拡大図】の「現代路線図ON/OFF」のボタンで表示 / 非表示を選択できます。
現代の鉄道路線図と幾つかのランドマークをピンク色で表示します。

江戸切絵図範囲
江戸切絵図(須原清七板)の範囲

江戸切絵図 (尾張屋清七板)の範囲
御江戸地図 【拡大図】の「切絵図範囲表示ON/OFF」のボタンで表示 / 非表示を選択できます。

江戸時代には沢山の種類の江戸の切絵図(地図)が作られました。当時は表札や住所表示を出す習慣がありませんでしたので、知らない場所に行くには、人に聞いてまわるか切絵図を持って歩くしかありませんでした。
左の図は江戸切絵図の中で一番カラフルで人気のあった須原清七板の幕末の切絵図を、正しい角度と距離に補正してどこの範囲であるかを示しています。

上記のボタンを押すと、この図より大きい図と、国会図書館デジタルアーカイブの切絵図が見られる切絵図一覧のページに移動します。

当時の切絵図は測量されているわけではありません。左の図はそれぞれの各切絵図の範囲を示していますが、それぞれ不定形です。それを長方形の版木に押し込めて描くので、方角や距離にはかなり歪みありますが、それを含めて当時の切絵図を見るのは楽しいです。

ちなみに、時代劇のテレビ番組で「北町奉行所」と書かれた看板が出ていることがありますが、それは現代のテレビ視聴者にわかりやすいようにしているだけで、看板は出していませんでした。地方から江戸勤めに来た武士には切絵図は必需品だったそうです。

御江戸地図-タイル座標図
御江戸地図-タイル座標図

タイル座標

御江戸地図 【拡大図】のタイル座標ON/OFFのボタンで表示 / 非表示を選択できます。

この図は、江戸地図の範囲をタイル状に分割した座標を示しています。
Excelのセル座標と同様に「英字+数字」の形式で、この地図では横(東西=X方向)がA~N、縦(南北=Y方向)が1~18の範囲にしています。
これは場所を説明する時に「XX町から東へ少し行ったXX村のあたり」と説明するより「座標K7」と言った方が簡単なので、座標番号をつけています。

この座標は、GoogleMap、Open Street Map、国土地理院の地理院タイルなどで使われている標準的な「地図タイル」のズームレベル15のタイル座標(ズームレベル/X座標/Y座標)に対応しています。例えば以下に座標の例をあげます。
「G9」は地図タイルの「15/29104/12902」、江戸城本丸周辺
「C9」は地図タイルの「15/29100/12902」、内藤新宿周辺
「B15」は地図タイルの「15/29099/12902」、中目黒村の祐天寺周辺

←をクリックすると、別タブで現代の皇居や東京駅周辺(左の地図のK8を中心とした付近)のタイル座標付きの地図が表示されます。

タイルと座標、ズームレベルの説明は上記ボタンを押してご覧ください。

【江戸図のX座標と、地理院タイルX座標の対応】

江戸図AB..FGHIJ..N
地理院2909829099..2910329104291052910629107..29111
横方向 (東西方向の座標 (左Aが西、右Nが東)

【江戸図のY座標と、地理院タイルY座標の対応】

江戸図12..6789..18
地理院1280512806..12809129001290112902..12011
横方向 (東西方向の座標 (左Aが西、右Nが東)

地図参考情報

国土地理院・地理院タイル・標準地図(電子国土基本図) https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html
江戸鳥観図 立川博章作
江戸切絵図 尾張屋清七(嘉永2年~文久2年制作の版)
江戸復元図 東京都 編集出版 1989年
復元・江戸情報地図 児玉幸多監修 朝日新聞社 出版
第一軍管地方二万分一迅速測図原図 復刻版 国土地理院所蔵 (財団法人)日本地図センター複製 1984年
五千分一東京図測量原図 参謀本部陸軍測量局 
萬世江戸絵図 藤英堂 藤屋音二郎板 嘉永2年(1849年 )

地図の作成工程

  1. 古地図の収集準備
    ・江戸時代の切絵図、大版の地図を用意します。
    ・参照、確認用に時代の近い明治時代に制作された測量された地図を準備します。
    ・江戸、他の国の城下町などの大きな街は、当時の地図から現代図に補正した地図もあるので参照用に準備します。ただし、下総国など他の地域のものは殆どありません。
  2. 現代地図の準備
    ・タイル座標がわかる地図、地理院タイル地図などを準備します。
  3. 古地図を幾何補正する
    古地図は現代の正確な地図と合わせると、部分部分に歪みが出て重なりません。
    ・江戸時代に制作された切絵図、特定の名所の地図などの測量をしていない地図は、大幅に補正が必要です。
    ・明治初期の最初の陸軍の測量図でも、湿気等で地図の紙が歪んでいたり、時に隣の地図を重ならない場合もあります。

    そこで、道路の角、山や丘の頂上などで、現代と当時の位置が同じ場所を選択して、地図をその点を頂点とした三角形に細かく分割して、現代地図に重ねる、という事を繰り返すのが一般的手法である。

    この方法は分割して再結合する手間が膨大なので、重ねる地図を画像としてPhotoshopの二つのレイヤーに読込み、下レイヤーに現代地図、上レイヤーに半透明にした古地図を重ねます。上レイヤーの古地図をPhotoshopの「ワープ変形」の機能で変形させる場所を選択しながら補正していきます。「ワープ変形」は画像を分割せずに部分的に修正できるのでだいぶ作業が楽になります。
  4. 地形の変更を反映する
    ・海沼川周りの地形は時代によって変わっています。
    ・江戸入江(現代の東京湾、江戸時代には定まった名称がありませんでした)は江戸時代から徐々に埋め立てられました。利根川、江戸川、中川などの関東の川は治水のために江戸期から昭和期にかけて大きく流れが変わっています。また印旛沼、手賀沼、沢山の沼は時代によって徐々に干拓されています。
    ・こうした干拓、治水工事を調べて、作成する時代の地形を確定させ、地図に反映します。
  5. 地名、名所名などををデジタル化した地図に名前をタイプしていく。
    ・現代と幾何補正した古地図の場所が一致している場合は、そのままの位置にデジタル化した地図に地名、寺社名などを記載します。
    ・地名が変わったり、地名に当てる文字が変わっていたりする場合があるので、名称変更を確認します。
    例:「馬加」(まくわり)→「幕張」(まくはり)
  6. 名所、ランドマークの選択
    ・江戸時代の住所地図を作りたいわけではないので、全ての町名、全ての大名武家の役宅、寺社を書かず、当時有名であった場所を選択して記載することにしました。
    ・大名屋敷は、大大名の有名な屋敷だけを記載します。
    ・寺社は、江戸名所図会に載っていて場所が特定できるものだけを記載します。
    ・地名は現代も残っている地名と、現代には残っていないけれどその場所の様子がわかる地名(例:通旅籠町)や江戸名所図会に載っている地名を選びました。
  7. 名所、ランドマークの名前、場所の調査
    ・神社は明治政府の神仏分離令により、江戸時代とは名称が変わった寺神が多数あるので、対象の時代での名前を調べます。ただし古い記録が無い場合もあるので、その場合は現代の名称で書くしかありません。
    例:「大山神社」(だいせんじ)→「大神山神社」「祇園感神院」や素戔嗚尊を祀る神社→「八坂神社」など
    ・火災、戦災、明治時代の神仏分離や廃仏運動のために、現代は存在していない寺社が多くあります。その場合、歴史的記録を調べ、周囲の道、川、建物等との相対位置から書き込んでいきます。
    ・寺社は場所が移動している場合もありますので、一つ一つ造られた時代、由来、場所と現在の場所を確認する必要があります。また地図が想定している年代には存在しなかった場所は地図には書けません。
  8. 地図を拡大縮小、移動しながら表示するための技術
    地図を単純な画像にしてしまうと、細かい所を見たくて拡大しても画像が荒くなってしまいます。GoogleMapのようにシームレスに拡大、縮小、移動しながら表示できるようにするために Deep Zoom Image (DZI) の技術を使って表示するようにしました。世界順の多くの美術館、日本の国立国会図書館、国立公文書館などで所蔵作品をデジタル・アーカイブとしてWebブラウザーで見られるようにしていますが、その技術です。画像をズームレベルごとに細かく分割し、OpenSeadragonというツールでWebブラウザーで表示できるようにしています。また、OpenSeadragonは複数の情報を重ねて表示することもできます。
  9. 付加情報
    ・江戸(現代の東京23区)といってもかなり広いので、土地勘が無い場所の地名を言われてもよくわからない場合があります。そこで現代の路線図を地図に重ねて表示できるようにしました。またタイルの座標できるようにしました。
    ・切絵図で江戸幕末当時の地図や様子を見たい時に、切絵図が28枚から構成されるのでどれを見れば良いのかわかるように、切絵図の範囲を地名、川、堀などから範囲を調べて地図に重ねて表示できるようにしました。
    ・同様に立川博章氏の江戸鳥観図の範囲を、地図に重ねて表示できるようにしました。