このページは、立川博章氏の手描きの3点透視法による江戸鳥瞰図の作り方の解説の2ページ目です。
立川氏に代わって江戸鳥瞰図の弟子であるTonbiWingサイト管理人・石川が解説していますが、ここから先は立川博章氏がお亡くなりになってから作成しているため、昔お聞きした話やメモからサイト管理人が図を書き起こして再構成して記載しています。
10.建物を描く
グリッド線を描いた紙の上に、グリッドが透けて見える別の紙を載せます。この紙の上に絵を描いていきます。
【10-1】まず、建物の土台の平面図を描きます。等高線に沿って立ち上げた、正しい高さの位置に平面図を鉛筆で描きます。鉛筆で描くのは、ペン入れをしてから消せるようにするためです。
この図は愛宕山の南側にある青松寺の平面図の一部です。
【10-2】平面図を高さ方向のグリッド線に沿って、軒の高さまで立ち上げます。
黒の線が建物の土台で、赤の点線が軒の高さです。
高さ方向のグリッド線は場所ごとに角度が異なるので、建物の土台の平面図を並行移動するだけでなく、調整が必要になります。
【10-3】軒を作成し、屋根を作ります。
軒は土台よりも外側に出っ張っていないと雨よけになりません。軒を赤の点線よりも外側に出した灰色の線を描きます。この手順は説明のためにステップを分けて書いているので、実際の場合は鉛筆で下絵の線を描きながら一度に描きます。
屋根の棟と屋根と軒を結ぶ線を描きます。右の図では青色の線で描いています。
屋根の棟も、高さのグリッド線に沿った位置に立ち上げて描きます。
屋根の形は、切妻、寄棟、入母屋など形は色々です。江戸時代の一軒ごとの建物の屋根の形の記録は残っていないため、これは想像で描くしかありません。ただし、慶応年間から明治時代には写真が撮られるようになってきたので、写真がある場所だけは正確に描くことができます。
【10-4】鉛筆で建物の図を描き、ペン入れをします。本来は隠れて見えない鉛筆線を消していきます。次の図は、立川氏に非常に簡単に描いてもらったラフスケッチを若干修正したものです。
11.樹木を描く
江戸の地図には樹木の種類は記録していませんが、明治陸軍の陸軍測量局が作成した「五千分一東京図測量原図」では、地図上で松、杦、楢などを記号を入れている場所もあり、樹木の植生がある程度わかります。
江戸鳥観図の縮尺からすると樹木はとても小さくなってしまいますので、樹木の種類までは描き分けられません。立川氏によれば、すらっとした背の高い木なのか、こんもりした背の低い木なのかはある程度は意識して描いたそうです。ここでは樹木の群生を鳥観図上で正しく描くための書き方を記載します。
【11-1】斜面の傾斜と樹木の密度
等間隔に均一な密度で履いている樹木も、斜面上では斜面の傾斜角度によって鳥観図上では見かけの密度が異なってきます。これは現実の見え方と同様です。
・斜面が急ならば、木の間隔は詰まって見えます。
・遠近法で遠くの木は小さく見え、樹木の密度が高く見えます。
【11-2】斜面の角度と鳥観図の視点から見える樹木
次の図の③のように斜面の勾配が急だと、鳥観図の視点から見た樹木は、頭の部分しか見えません。
斜面の傾斜を常に意識しながら、樹木の見える範囲と密度を描く必要があります。
12.絵を作成する
建物、樹木の書き方に沿って鉛筆で下書きを描き、次にインクで仕上がり線を書きます。
次の図は愛宕屋山と愛宕神社とその周辺を描いた図です。グリッド線上の等高線、建物の土台の平面図と、そこから作成した絵です。ただし、ラフに書いた作成中の鳥観図です。
13.色を塗って完成させる
水の色、道路、木、瓦屋根、板葺き屋根の色の基本の色を、色バランスが美しくなるように選んで統一感をもって色を塗っていきます。
光の方向、即ち影が出る方向を決めて色を塗っていきます。鳥瞰図を描く上で、逆光で手前に影が出るように描きます。
次の図は、愛宕山と愛宕神社とその周辺部分の鳥瞰図です。
立川氏の江戸鳥瞰図は、どれも畳位の大きさなので、色を奥から塗っていきます。
次の図は完成した愛宕図です。