鳥瞰図(= bird's eye view、俯瞰図、パノラマ図)には様々な描き方がありますが、共通しているのは、斜め上空から町並みや風景を見下ろして描かれていることです。3Dモデリングツールを使うと。技法を意識せずに鳥観図や立体的な動画が作れてしまいますが、描きたいものによって選択する技法は異なるので、まずは基本を理解しましょう。ここでは、鳥瞰図の技法の幾つかをご紹介します。

  • 遠近感のある技法
    人間の視覚に合わせて、近くを大きく、遠くを小さく描くのが遠近法です。代表的な図法による描き方として、 透視投影法 (perspective projection)があります。それによって描かれた図を透視図(perspective drawing)、略してパース図と呼びます。透視投影法は、消失点(後述)の数によって1点透視法、2点透視法、3点透視法に分類されます。
    透視投影法は、それ以外にも直接法、測点法などがありますが、鳥瞰図にはあまり使われないので省略します。

    立川博章氏は、3点透視法で江戸鳥観図を作成されました。以下は江戸鳥瞰図の一部抜粋です。
    江戸鳥観図 部分抜粋イメージ

  • 遠近感を持たずに描く技法  (平行投影法 paraline projection)
    遠くも近くも同じ大きさで描きます。アクソノメリトックス投影法((axonometric projection)、アイソメリトクス法(isometric projection)などがあります。広範囲の鳥瞰図を遠く (絵の上の方)まで、細部まで同じ大きさで見ることができます。

    以下は都市鳥瞰図絵師、青山大介氏のTwitter Top pageの図を転載させて頂いたものです。神戸を中心に大阪・渋谷・姫路・函館などの町の鳥観図を制作していっらしゃいます。是非ご覧になってみてください。
    青山 大介@鳥瞰図絵師
    石原正氏(1937年 - 2005年)も、この技法で多くの鳥観図を残されました。
  • 図法によらない感覚的な描き方
    大正、昭和期の吉田初三郎の鳥瞰図のように、方向、大きさ、位置関係をデフォルメして自由に感覚的に描いたものもあります。
    吉田初三郎の鳥瞰図は、「吉田初三郎式鳥瞰図データベース」が最も詳しく見られるのでご覧ください。
    以下の図は「大丸を中心とせる京都名所案内鳥瞰圖: 御大禮紀念(1928)」の一部抜粋です。
    吉田初三郎式鳥瞰図

各技法説明

元となる地図

右のような地図を例にして説明します。

AからEまでの黒線で描かれた5つの建物がこの地図の範囲にあるとします。 青線のグリッド(格子)は、地図の上の線です。

A、B、Cの建物は地図上の縦横のグリッドに沿って建てられています。道や建物が碁盤目にように配置されている町の方が少ないので、 建物D、Eはグリッドに対して45度斜めに建てられています。

元の地図
元となる地図

アクソノメトリックス法

アクソノメトリックス法 (略してアクソノメ、またはアクソメと呼ばれる)で描かれた鳥瞰図は、近くも遠くも同じになります。地図の形をそのまま描き、建物や土地の高さの分だけその面を上に持ち上げで描きます。

右の図では建物の屋根を高さの分だけ垂直に持ち上げて描きます。正面から描くとA、B、Cのように碁盤の目の縦の線にそった建物の側面が見えなくなってしまい、建物が描き難くなるので、少し地図を傾けます。

アクソノメトリックスによる鳥瞰図
アクソノメトリックスによる鳥瞰図

1点透視法

1点透視法は、最も基本的な遠近法の描き方で、地図を正面から見ます。

地図の垂直方向の線が、遠くのある一つの点(消失点)に収束するように描くのが1点透視法です。地図上の水平な線は水平なままです。建物の高さ方向の線は、垂直な線として描きます。

一点透視法による鳥瞰図
一点透視法による鳥瞰図

この図法は、A、B、Cの建物のように地図の垂直、水平な線に沿った方向に配置されている場合は自然に見えます。一点透視法は、このような図を描くのには適しています。 ですが、建物D、Eのように斜めになっている場合に、どのように描くのか図法上は決められておらず、自然に描くのが難しくなります。

町並みは、必ずしも碁盤の目のように配置されているわけではないので、広い範囲の鳥瞰図を描くにはあまり適してはいませんが、作図は最も簡単です。

2点透視法

次に、二つの消失点を置いたのが2点透視法です。建物の高さ方向の線は、図に垂直に描きます。

建物D、Eのように斜めに配置されている建物も描きやすくなります。

透視法に消失点の場所に特に決まりはなく、一つ、二つの少数の構造物を描く際は、消失点は比較的自由に決められます。マンションや一戸建ての家の完成予想図などは、右のように下から見上げた二点透視法で多く描かれています。

二点透視法による鳥瞰図
二点透視法による鳥瞰図
二点透視法による建物図
二点透視法による建物図

広い範囲の鳥瞰図を描こうとすると、自然に見えるようにするために視点の決め方に注意が必要になります。

広い範囲の鳥瞰図を描こうとすると、実際に高い所から見下ろした風景と、2点透視法の図は差が出てきてきます。自然に描こうとすると、2点透視法に三つ目の消失点を加えた3点透視法が必要になります。/

3点透視法

実際に高い所い所から建物を見下ろした風景は、画面の端に行くほど斜めに見えます。例えばスカイツリーのような高い場所から見ると、実際によくわかります。2点透視法ではこの傾きが表現できません。

 そこで高さ方向の傾きを表現するために、三つめの消失点を加えたのが三点透視法です。右の図の下の方にあるのが三つめの消失点で、そこから放射状に出ている赤い線が高さ方向の傾きを表します。

三点透視法の消失点
三点透視法の消失点

 立川博章氏の手描きの三点透視法では、この第三の消失点の位置は、画面右端のCの建物の影にある赤い楕円を使用して割り出します。

端のグリッドの4辺に内接する楕円を描き、その短軸を延長した線と中心線の交点が消失点になります。楕円を使った第三の消失点の決め方は、鳥瞰図の作り方の【3.楕円から消失点を探る】を参照してください

三点透視法による鳥瞰図(補助線付き)
三点透視法による鳥瞰図(補助線付き)

この赤線に沿って建物の傾きを描くと、次の図のようになります。中央は建物は真っすぐで、端に行くほど斜めに描かれます。

三点透視法で適切な消失点をとることにより、実際に空から見下ろした風景に近い自然な鳥瞰図を描くことができます。

三点透視法による鳥瞰図(完成図)
三点透視法による鳥瞰図(完成図)

参考文献

建築とデザインのための図形科学
山田由紀子著 倍風館 ISBN4-563-03011-2「図形科学」は平面図形や立体を、幾何学の知識を基礎として表現するものです。P124~P137に透視図法を 図形科学から理論的に説明しています。